相和す
では、そのラブドールと暮らす中島さんは、どのような生活を送っているのだろうか。
料理をして、散歩をして、お風呂に入って、寝るという本当にありふれた生活ですが、対象がラブドールにかわっただけです。
中島さんは、沙織さんを連れて出かけるのが大好きだった。ある時は芝生に座って静かにくつろぎ、ある時は車椅子を押して公園を回り、ある時は車でドライブし、ある時は庭でゆっくり日光浴をする。
中島さんは、自宅で沙織さんを食卓に座らせ、料理をする姿を見てもらい、その時の嬉しさといったらなかったという。ダッチワイフは食べないが、沙織は鮭や揚げ玉が好きなのだろうと想像していた。2人はまるで夫婦のようにテーブルで天気のこと、仕事のこと、政治のこと、時事問題のことなど、おしゃべりをしていた。また、こうしたことは多かれ少なかれファンタジー的な性格のものであることを認めた上で、その過程が美しく喜びがあるのだという。
中島さんは毎日丁寧に服を着せ替えてあげています。髪をとかし、ウィッグ、髪留め、カールアイロンなど、非常に身だしなみグッズにお金をかけています。沙織さんは定期的にメーカーに送ってメンテナンスをしてもらっている為、まるで本物の女の子のように洗練された姿をしています。
沙織はカジュアルに、けいはセクシーにと、それぞれのドールに個性があります。ドールにいい暮らしをさせる為に、自分の服や食事はできるだけ節約をしています。ドールが美しくなるのであればそれに見合うだけの価値があると感じるそうです。
また、ドールの服については、見た目を考慮することはもちろん、ドールの関節を傷つけないようにゆったりとした服を選ぶように心がけているそうです。頭を外して着せればいいのだが、ジョイント部分の金属を錆びさせる恐れがあるので、なるべくこの方法はとらず、毎回汗だくになりながら30分ほどかけて着せているそうです。
64歳の時、ついに趣味のダッチワイフを商売にすることになった。メーカーの協力を得て、ダッチワイフディスプレイの代理店を開き、お客は少なかったが、何とかやっていけるようになった。外国人労働者を助ける仕事もやっていたので、生活するのがやつとの状態だった。
中島さんにとって仕事は生活の糧に過ぎず、ドールが居る限り生活は充実している言う。ドール業界も時代とともに進歩し、肌の質感も大きく向上し、血管など再現されるようになり、よりクオリティーが上がっています。将来的にはAIチップを搭載して実際に会話できるようになり、ドールがこの世に存在する意味をより強く感じられるようになることを期待しているそうです。
今後については、健康維持に努め、ドールとの交流を続けられなくなる時が来たら、その時は別れの時だという。その時は信頼できる人にドールを託し、自分が旅立つ時が来たら、沙織もあの世までついてきてほしいと言うのだ。
珍しい人はいつもその国の文化のあまり知られていない部分を反映しているものですが、中島さんの話しもその部分が大きいですね。決して彼だけでなく、結婚や老後の伴侶など、ドールにまつわる物語は数多く存在し、ドールは親しみやすくも普遍的な存在として、映画やテレビの題材になることも多いのです。
有名なところでは、ペ・ドゥナ主演の「空気ドール」があります。この作品は、命を得たドールが世の中の悲しみや喜びを経験する話しです。そして、新井ゆうさん主演の「ロマンティックドール」は、現役の肉体派人形師が、妻を亡くした後に妻と同じ人形を作るという、文学的で不気味なラブストーリーです。
監督やキャストの構成を見てもわかるように、このような題材は日本で作るには卑屈なニッチ映画ではなく、ある意味大胆でエッジの効いた試みですが、日本人の多くはこのような物語を受け入れています。「世話をしたり、服を着せたり、ちょとしたことをしたり、自分を必要としている人を見つけたりすることで、まだ何かあると思うのです。」そのように語るのは、あるサークルだ。
多くの人にとってドールは精神的、感情的な伴侶です。中島さんは奥さんとはお見合いで結婚し、家庭を築きましたが、正式なデートは1回もしたことがないと言っていました。奥さんと一緒にやりたいと思っていた様々なことがドール達とのデートでようやく実現できたのです。
沙織さんは中島さんにとって「陽だまりのような明るい存在」なのだ。若い頃に妻を裏切ったり、家族や仕事に対する責任感が希薄だったりと、道徳的には決して立派な人間ではないが、そんな欠点だらけの男でも、ドールには揺るぎない慰めを見出だすことができる。
世の中のあらゆる人の差別なく受け入れることができるのが、このドールの魅力なのかもしれませんね。